8月25日(一部)|総務省との勉強会・意見交換会|ローカル10,000プロジェクトと地域企業のAI活用

2026年8月25日、Japan Grand Challenge研究会では、総務省が所管する「ローカル10,000プロジェクト(地域経済循環創造事業交付金)」をテーマに、地域企業の新規事業創出とAI活用の可能性について
総務省の地域力創造グループ地域政策課より
地域政策課長 大森康宏 様
地域政策課 企画第一係長 伊藤武人 様
をお迎えして、勉強会・意見交換会を開催しました。
今回のテーマは、単に補助制度の仕組みを学ぶことではありません。
人口減少や人手不足が進む地域において、AIを単なる業務効率化のためのツールとして導入するのではなく、地域に新しい事業やサービスを生み出す力として、どのように社会実装していくのか。
そのために、行政、地域金融機関、民間事業者がどのような役割を担い、既存の地域支援制度とAI活用をどのように接続できるのかについて、具体的な制度や事例をもとに意見を交わしました。

地域の資源を「新しい事業」に変えるローカル10,000プロジェクト
今回、まず説明を受けたのが、総務省が所管する「ローカル10,000プロジェクト」です。
地域に存在する資源や地域固有の課題を起点として、民間事業者が新しい事業を立ち上げる際に、自治体による公費助成と地域金融機関等による融資を組み合わせながら、その初期投資を支援していく制度です。
重要なのは、単に補助金を交付して終わる制度ではないという点です。
民間事業者、自治体、地域金融機関が連携しながら事業を成立させ、その事業から売上や雇用、地域内での消費を生み出していく。
今回の説明を通じて、「地域にある資源を、継続的に価値を生み出す民間事業へ変えていく」という制度の考え方について理解を深めました。

AIを「効率化」で終わらせず、新しい地域事業につなげられるか
今回の意見交換で大きなテーマとなったのが、AIと地域産業支援をどのように接続するかという点です。
現在、多くの企業で生成AIの活用が始まっています。
文章作成、情報整理、問い合わせ対応、資料作成など、既存業務を効率化する活用は急速に広がっています。
一方で、今回の議論では、AIを単に「今ある仕事を速くするもの」として捉えるだけではなく、
AIを使うことで、これまで地域になかった事業やサービスを生み出せないか
という視点について意見を交わしました。
ローカル10,000プロジェクトについても、既存事業への単純なAI導入ではなく、地域にとって新しい事業を立ち上げる中でAIを活用するという考え方が重要になることが共有されました。
例えば意見交換の中では、在宅介護などの領域における安否確認をはじめ、AIやデジタル技術を使って、これまでとは異なる地域サービスを構築していく可能性についても話題となりました。
AIを導入すること自体を目的にするのではなく、
「AIによって、その地域にどのような新しい価値を生み出すのか」
まで考えることが、今後の地域AI活用では重要になります。

「地域性」とは何か——特産品だけが地域資源ではない
意見交換では、「地域性をどのように考えるのか」という点についても議論が行われました。
地域事業というと、農産物や水産物、伝統工芸、観光資源など、分かりやすい地域特産品を思い浮かべがちです。
しかし実際の事業では、単に地域の特産品を使用しているかだけで判断するのではなく、その地域でどのような課題が存在し、その事業によって何を新しく生み出すのかという視点も重要になります。
今回の説明では、地域の特産や特性について一律の客観基準を設けるのではなく、申請内容に応じて個別に判断されることや、市町村内で前例のない取組がモデル性の一つとなり得ることなどが共有されました。
都市部も制度の対象となり得ます。
また、活用主体についても、特定の業種・企業形態だけに限定されるものではなく、商店街団体、新会社、個人商店、協同組合、医療法人など、さまざまな形での活用例があることが紹介されました。
地域課題という言葉を狭く捉えるのではなく、
「その地域では、まだ十分に解決されていないことは何か」
「そこに民間事業として成立する新しい解決方法をつくれないか」
というところから事業を考えていくことが重要だと感じる機会となりました。
AIによる省人化と、地域における雇用創出をどう考えるか
AI活用を考える上では、もう一つ興味深い論点もありました。
AIの大きな価値の一つは、人が行ってきた作業を効率化し、少ない人数でも多くの仕事を処理できるようにすることです。
一方、地域産業支援では、新しい事業や雇用を地域に生み出していくことも重要な目的になります。
そのため意見交換では、
「AIによる省人化」と「地域における雇用創出」をどのように両立して考えるのか
という論点についても意見が交わされました。
これは単純に「AIによって人を減らすか、人を増やすか」という二者択一ではありません。
AIによって既存業務の負担を減らす一方で、それまで人員や採算性の問題から成立しなかった新しいサービスを立ち上げたり、事業そのものを拡大したりすることで、新しい仕事や役割を地域につくることも考えられます。
AIによって既存の仕事を減らすことだけを見るのではなく、AIによって新しく成立する仕事や事業まで含めて考える。
地域におけるAI活用を考える上で、今後さらに重要になる視点です。
自治体・金融機関・民間事業者が一緒に事業をつくる
今回、制度そのものと同時に印象的だったのが、事業者だけでは完結しない仕組みです。
新しい地域事業を構想する民間事業者がいて、自治体がその地域における意義を考え、地域金融機関が事業としての実現可能性を見ながら資金面を支える。
ローカル10,000プロジェクトでは、この複数の主体が連携することが制度設計の前提になっています。
そのため、単に「良いアイデアがあります」というだけではなく、
地域にどのような課題があるのか。
その地域のどのような資源を活用するのか。
誰に、どのような価値を提供するのか。
事業として継続できるのか。
その地域で実施する意味は何なのか。
まで具体化していく必要があります。
今回の説明では、既存制度では随時相談・申請が行われている一方、正式な申請に至るまで、自治体や関係者との調整に相応の時間を要するケースがあることも共有されました。
制度を知った後に申請書を書くのではなく、事業構想の段階から行政や金融機関と対話していくこと自体が重要なプロセスであることを学びました。
地域企業のAI活用を支える仕組みについても意見交換
今回の会では、今後、地域企業によるAI活用をさらに後押ししていくための支援のあり方についても意見交換が行われました。
AIを活用した新規事業を地域で立ち上げる場合、従来型の設備投資とは異なり、ソフトウェア、システム開発、AIサービス、データ活用など、デジタル特有の費用が発生します。
こうした費用を地域産業支援の中でどのように位置づけていくのかについても議論が行われました。
なお、今回話題となったAI活用に関する新たな支援枠については、現時点では検討段階であり、予算規模、対象経費、採択条件等が確定したものではありません。
そのため今回の会では、特定の制度が決定したという共有ではなく、
「地域企業のAI活用をどのような形で支援できるのか」
という今後の可能性について意見を交わしました。
AIを地域に導入するのではなく、AIから新しい地域産業をつくる
今回の勉強会・意見交換会を通じて見えてきたのは、AIの地域実装を考える際には、単なるツール導入支援だけでは十分ではないということです。
ChatGPTを導入する。
AI研修を実施する。
業務を効率化する。
もちろん、それらも重要です。
しかし、その先には、
地域に存在する課題と資源を見つけ、AIを組み合わせることで、これまで成立しなかった新しい事業やサービスを生み出す
という可能性があります。
地域の高齢化にAIを掛け合わせる。
地域交通にAIを掛け合わせる。
農林水産業にAIを掛け合わせる。
観光や地域文化にAIを掛け合わせる。
地域企業が持つ技術やノウハウにAIを掛け合わせる。
重要なのはAIそのものではなく、AIによって地域の何を変えられるのかです。
そして、民間企業だけでは初期投資や事業リスクを負い切れない領域を、自治体や地域金融機関が一緒になって支える仕組みがあれば、地域から新しい事業が生まれる可能性はさらに広がります。
Japan Grand Challenge研究会では今後も、AIを単なる効率化技術として捉えるのではなく、地域産業、行政、教育、雇用など社会のさまざまな領域と接続しながら、「AIによって新しく何を実現できるのか」という視点から、社会実装に向けた議論と研究を進めていきます。
