10月23日|株式会社ニュウジアとの勉強会|生成AIの社会実装と働き方・社会制度の変化

2026年10月23日、Japan Grand Challenge研究会は、株式会社ニュウジア 代表取締役 柏口 之宏氏を講師に迎え、生成AIの社会実装と、働き方・社会制度の変化をテーマに勉強会を開催しました。
柏口氏は、中国でのコンテンツ事業などに取り組み、日経ビジネス「世界を動かす日本人50」(2019年2月4日号)に、孫正義氏・大谷翔平氏らとともに選出されています。今回は、画像・動画生成や対話AIを実際の業務に結びつける事例から、AIが産業と暮らしに与える影響まで、幅広くお話しいただきました。
生成AIを「現場で使う仕組み」にする
講義の冒頭では、AIに関わる事業を、通信、データセンター、基盤モデル、利用者に近いアプリケーションという四つの層に分けて説明いただきました。ニュウジアが注力するのは、画像・動画の生成と、人とのコミュニケーションを支えるAIを、具体的な仕事やサービスに結びつける領域です。
柏口氏は、携帯電話向けサービスが広がった時代の経験も交え、基盤となる技術が整うことで、その上に新しい事業を生み出す機会が開かれると説明しました。AIそのものを開発するだけでなく、現場の困りごとを捉え、既存の技術を使える仕組みにすることも重要な役割だと理解を深めました。
画像・動画制作の工程をどう変えるか
画像・動画生成の事例として紹介されたのが、アパレルの商品紹介です。従来はモデルや撮影場所、カメラマン、スタイリストなどを手配していた工程に対し、実際の衣服とAIで生成した人物を組み合わせ、ECサイトやカタログ向けの画像を制作する方法が示されました。さらに、静止画を動画に展開し、動きのある表現へつなげる事例も取り上げられました。
このほか、人物の姿を再現するデジタルヒューマンや、地域の魅力を伝える映像なども紹介されました。こうした変化は、制作時間や費用の削減だけでなく、これまで制作に踏み出しにくかった事業者にも、表現や発信の選択肢を広げる可能性があります。何を伝えたいのかを企画し、出来上がった内容を確かめる人の役割も、併せて考える必要があります。
電話応対から暮らしの支援へ広がる対話AI
対話AIでは、電話による注文・予約・問い合わせへの対応が取り上げられました。営業時間外の問い合わせや、通販番組の放送後、交通機関の運行に乱れが生じた際など、特定の時間帯に連絡が集中する場面があります。柏口氏は、こうした応対の集中や多言語での問い合わせに対し、AIを活用する考え方を紹介しました。
また、AIが回答できなかった内容を人に報告し、人が適切な答えを補うことで、次の応対に生かす仕組みも説明されました。導入して終わりではなく、実際に寄せられる質問を通じて改善していくことが、業務に合った仕組みを育てるうえで重要になります。AIの応対に慣れない利用者がいたという経験にも触れられ、性能だけでなく、使う人の受け止め方も検討する必要性がうかがえました。
生活に近い事例としては、離れて暮らす高齢者にAIが電話で声をかけ、会話の様子を家族に伝える仕組みや、AIを相手に英会話を練習する活用も紹介されました。対話AIを単なる受付の自動化としてではなく、人と接する機会や学ぶ機会を補う技術として捉える視点が示されました。
設計・営業支援に見る専門職の変化
建築分野では、設計事務所で使われている作図ソフトと連携するAIや、図面から建物のイメージを可視化する技術が紹介されました。質疑では、従来の道具をすべて置き換えるのではなく、既存の仕事の流れにAIを組み合わせる方法についても説明がありました。
営業分野では、身につけたバッジで会話を記録し、説明の振り返りや担当者の育成、業務日報の作成などに生かす仕組みが取り上げられました。経験豊かな担当者の工夫を共有することや、説明の不足に気づくことを支援する例です。これらには、ニュウジアが国内で展開する海外製品も含まれており、自社開発のサービスとあわせて紹介されました。
学び直しと「人に残る役割」を問い直す
意見交換では、設計の仕事に携わった参加者から、手描きの製図や模型、建物の完成予想図など、長年培ってきた技術が新しい道具によって変わってきた経験が語られました。そのうえで、AIが業務を担うようになったとき、これまでその仕事に従事してきた人はどうすればよいのかという問いが出されました。
柏口氏は、AIを使いこなす側へ移るための学び直しの重要性を説明しました。一方、参加者からは、生産性が高まればAIを扱うために必要な人数も少なくなり、学び直しだけでは対応しきれないのではないかという指摘もありました。技術を学ぶことと、新たな働く場や所得の機会が生まれることは、分けて考える必要があります。
人に寄り添い、信頼関係を築く役割についても議論が及びました。柏口氏は、人との関係性や、その場にいることが価値を持つ場面に言及しましたが、参加者からは、対話AIがそうした領域にも広がる可能性が示されました。「この仕事は必ず人に残る」と固定せず、人とAIの役割を継続的に問い直す議論となりました。
生産性の向上を、社会の仕組みにどうつなぐか
AIを業務に組み込むことは、既存企業の効率化にとどまりません。少人数でも幅広い業務を担えるようになれば、会社の規模と事業の力の関係や、企業間の競争のあり方も変わる可能性があります。講義では、AIの活用を前提として事業を組み立てる企業のスピードについても話がありました。
議論は、働くことと所得を得ることの関係や、ベーシックインカムを含む将来の社会保障にも及びました。技術によって生み出される価値を、働く人や社会の生活基盤にどうつなげるのか。特定の将来像や制度の採用を前提とせず、教育・雇用・所得・社会保障を一体で検討することが、JGCIとして向き合う課題です。
JGCIとして考える、現場に根ざした社会実装
終盤には、介護や物流など、社会の暮らしを支える現場のリスクをどう把握するかという質問も出されました。音声や映像の記録とAIを組み合わせ、現場の状況把握や支援の質の向上につなげられないかという問題意識です。仕事を人からAIやロボットへ置き換える話だけでなく、現場で働く人をどう支えるかという視点も重要になります。
JGCIとしては、こうした技術の活用を、効果と運用条件の両面から考える必要があります。記録の利用目的や個人情報への配慮、誰が内容を確認するのか、判断と対応の責任をどこに置くのか。サービスを受ける人と働く人の双方の視点から、現場で検証していくことが欠かせません。
今回の勉強会は、AIの具体的な活用を知ることと、その先にある社会の仕組みを考えることをつなぐ機会となりました。Japan Grand Challenge研究会は、技術の可能性と実際の効果を切り分け、現場の知見に基づきながら、AI時代の産業・教育・雇用・社会保障をめぐる議論を続けます。
